研究系及び研究施設の現状 265
3-11 岡崎共通研究施設(分子科学研究所関連)
岡崎統合バイオサイエンスセンター
青 野 重 利(教授) (2002 年 5 月 1 日着任)
A -1)専門領域:生物無機化学
A -2)研究課題:
a) 一酸化炭素センサータンパク質 C ooA の構造と機能に関する研究 b)酸素センサータンパク質 HemA T の構造と機能に関する研究 c) 新規なセンサータンパク質 D crA の単離とその性質の解明 d)ヘムを活性中心とする新規な脱水酵素の構造と機能に関する研究
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 好熱性一酸化炭素酸化細菌Carboxydothermus hydrogenoformans中に含まれるCooA ホモログタンパク質(C h-C ooA ) の結晶化条件を検討し,その単結晶を得た。得られた結晶を用いたX線結晶構造解析により,分子中のヘムにイミダ ゾールが結合したイミダゾール結合型C h-C ooA の構造解明に成功した。分子中のヘムには,His82およびイミダゾー ルが軸配位子として配位していた。イミダゾールは,C O結合型C h-C ooA においてC Oが結合するサイトに結合して おり,その結果,還元型ヘムに配位していた N 末端はヘムから解離し,ヘム鉄からは約 16 オングストローム離れた ところに位置していることが分かった。これまでに報告されているRodospirillum rubrum由来のCooA(Rr-CooA )の 還元型における構造と,今回得られた構造を比較した結果,イミダゾール結合型C h-C ooA 中のヘムは,ヘムのα–γメ ソ軸回りに 180度,軸配位子の配位軸回りに 30度回転していることが明かとなった。軸配位子の配位軸回りの回転 は,イミダゾ−ル結合に際し,還元型ヘムの第6配位子であるN末端がヘムから解離したことによって誘起された ものと考えられる。N末端領域に存在するMet5のカルボニル酸素とイミダゾ−ル間に水素結合が形成されているこ とも分かった。この水素結合の存在により,ヘムから解離したN末端領域のコンフォメ−ション変化,およびヘムの 回転,移動が抑制されていると推定される。C ooA の生理的なエフェクターであるC Oがヘムに配位した場合には,上 記のような水素結合による抑制は存在しないと考えられるため,イミダゾールが配位した場合よりもより大きくヘ ムが回転(あるいは移動)するものと思われる。
b)枯草菌中に含まれるHemA T は,本細菌の酸素に対する走化性制御系において酸素センサーとして機能するシグナ ルトランスデューサータンパク質である。本年度は,昨年度に引き続き,共鳴ラマンスペクトル法を用い,HemA T に よる酸素センシング機構の解明を行った。その結果,HemA T 中のヘムに酸素分子が結合した酸素化型HemA T では, His86とヘムのプロピオン酸基との間で特異的な水素結合が形成されていることが分かった。また,酸素以外の気体 分子(C OおよびNO)がヘムに結合した場合には,His86とヘムのプロピオン酸基との間の水素結合は形成されない ことも分かった。His86 を A laに置換した H86A 変異体を用いて同様の測定を行った結果,本変異体では当然のこと ながら 86 番残基とプロピオン酸基との間の水素結合は形成されない。さらに野生型で観測されるヘムに配位した 酸素分子とT hr95との間の水素結合が,本変異体では形成されていないことが分かった。このことは,HemA T への酸
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素結合により,まずHis86とヘムのプロピオン酸基との間で特異的な水素結合が形成されることでC E ループ(His86 が存在している部分)のコンフォメ−ション変化が誘起され,それがT hr95が位置するE ヘリックスの構造変化へと つながっていることを示している。このような一連の構造変化は,酸素が結合した場合にのみ誘起される。なぜなら ば,C O や NO が結合した場合には,構造変化の引き金となる His86 とヘムのプロピオン酸基との間の水素結合形成 が起こらないため,一連の構造変化も起こらないものと考えられる。
c) 新規なセンサータンパク質として,硫酸還元菌Desulfovibrio vulgaris中に含まれるDcrA タンパク質の発現系の構築 を行い,その性質についての検討を行った。本年度は,昨年度に引き続き,膜タンパク質であるD crA のペリプラズム ドメイン(D crA -N)のみを発現させ,得られたD crA -Nの諸性質の解明を行った。大腸菌を用いたD crA -Nの発現に際 しては,DcrA がタンパク質部分に共有結合したc型ヘムを含むと予想されることから,c型ヘムの生合成に必要なア クセサリ−タンパク質を共発現させた発現系を用いた。その結果,D crA -Nはタンパク質部分と共有結合したc型ヘ ムを含む成熟型として得られることが分かった。これまでに報告されているヘム含有型センサータンパク質はすべ て,b型ヘムをセンサーの活性中心として有しており,c型ヘムを活性中心とするセンサータンパク質はDcrA が初め ての例である。D crA -N中に含まれるヘムは,酸化型では第6配位子として水分子が配位した6配位高スピン構造を とる。ところがヘム鉄が還元された還元型D crA -Nでは,2つのアミノ酸残基が配位した6配位低スピン型となる。 また,還元型DcrA -Nは配位飽和な状態にあるにも関わらず,C Oと容易に反応し,C O結合型を生成することが分かっ た。D crA -N の電気化学的酸化還元滴定を行い,その酸化還元電位を測定したところ,–250 mV (vs. NHE) という,非 常に低い酸化還元電位を示した。この値は,DcrA -Nと同様なc型ヘムを有する通常のチトクロムcの値に比べ,約500 mV も低い値である。D crA が酸素,あるいは酸化ストレスのセンサーとして機能するため,このような低い酸化還元 電位を有しているものと推定される。
d) アルドキシム脱水酵素はアルドキシムの脱水反応によりニトリルを生成する反応を触媒する新規なヘム含有酵素 である。本年度は,Bacillus sp. OxB-1株由来のアセトアルドキシム脱水酵素(OxdB )の構造機能相関の解明を目的と した研究を行った。OxdB はモノマー構造を有しており,酵素1分子中に1分子のb型ヘムを有している。Hisが軸配 位したヘムは,酸化型ではさらに水分子が配位した6配位高スピン構造を,還元型ではHis配位の5配位高スピン構 造を有していることが分かった。本酵素は,分子中のヘムが還元型である場合が活性型であり,ヘムが酸化型の場合 には不活性型であることが分かった。興味深いことに,活性型酵素のみならず,不活性型酵素にもOxdB の基質であ るフェニルアセトアルドキシムが結合することが分かった。基質はOxdB 中のヘムに配位するが,ヘムが酸化型の場 合と還元型の場合では,基質の配位様式が異なっていることが明かとなった。すなわち,不活性型である酸化型ヘム には基質の酸素原子がヘム鉄に配位するのに対し,活性型である還元型ヘムには基質の窒素原子がヘム鉄に配位す ることが分かった。また,基質周辺のヘムポケットに存在するHis306が触媒残基として機能することにより,ヘムに 配位した基質の脱水反応が進行することが分かった。
B -1) 学術論文
S. YOSHIOKA, K. KOBAYASHI, H. YOSHIMURA, T. UCHIDA, T. KITAGAWA and S. AONO, “Biophysical Properties
of a c-Type Heme in Chemotaxis Signal Transducer Protein DcrA,” Biochemistry 44, 15406–15413 (2005).
K. KOBAYASHI, S. YOSHIOKA, Y. KATO, Y. ASANO and S. AONO, “Regulation of Aldoxime Dehydratase Activity by Redox-Dependent Change in the Coordination Structure of the Aldoxime-Heme Complex,” J. Biol. Chem. 280, 5486–5490 (2005).
研究系及び研究施設の現状 267 S. INAGAKI, C. MASUDA, T. AKAISHI, H. NAKAJIMA, S. YOSHIOKA, T. OHTA, T. KITAGAWA and S. AONO,
“Spectroscopic and Redox Properties of a CooA Homologue from Carboxydothermus hydrogenoformans,” J. Biol. Chem. 280, 3269–3274 (2005).
B -4) 招待講演
S. AONO, “Molecular mechanism of gene regulation by the heme-based CO sensor protein,” Molecule-Based Information
Transmission and Reception: Application of Membrane Protein Biofunction (MB-ITR2005), Okazaki (Japan), March 2005. S. AONO, “Molecular mechanism of functional regulation for the heme-based sensor proteins,” 12th International Conference on Biological Inorganic Chemistry (ICBIC 12), Ann Arbor (U.S.A.) July–August 2005.
B -7) 学会および社会的活動
文部科学省、学術振興会等の役員等
日本学術振興会特別研究員等審査会専門委員 (2005- ). 日本学術振興会国際事業委員会書面審査員 (2005- ). 学会誌編集委員
J. Biol. Inorg. Chem., Editorial Advisory Board (2002-2004).
B -8) 他大学での講義、客員
広島大学理学部 , 非常勤講師 , 2005年 4月 -2006 年 3 月 .
B -10)外部獲得資金
重点領域研究(A ) 「特殊反応場触媒」, 「金属蛋白質中に含まれる遷移金属クラスターの生体特殊反応場による機能制御」, 青 野重利 (1995年 -1996年).
重点領域研究(A ) 「天然超分子」, 「DNA 認識能を有する蛋白質超分子機能の金属イオンによる制御機構に関する研究」, 青 野重利 (1995年 -1996年).
チバ・ガイギー科学振興財団 研究奨励金, 「一酸化炭素による遺伝子発現の制御:C Oセンサーとして機能するヘムを含 む新規なD NA 結合転写調節蛋白質の構造と機能に関する研究」, 青野重利 (1996年).
特定領域研究(A ) 「生体金属分子科学」, 「遷移金属含有型転写調節因子による遺伝子発現調節機構に関する研究」, 青 野重利 (1996年 -1999年).
住友財団 基礎科学研究助成, 「一酸化炭素をエフェクターとする新規な転写調節因子の生物無機化学的研究」, 青野重 利 (1997年).
旭硝子財団 奨励研究助成, 「一酸化炭素による遺伝子発現の調節に関与する新規な転写調節因子CooAに関する研究」, 青 野重利 (1998年).
特定領域研究( A ) 「標的分子デザイン」, 「一酸化炭素をエフェクターとする転写調節因子の一酸化炭素応答および D NA 認識機構」, 青野重利 (1998年 -2000年).
基盤研究(C ), 「シグナルセンサーとしてのヘムを有する転写調節因子の構造と機能に関する研究」, 青野重利 (2000年-2001 年).
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特定領域研究「生体金属センサー」, 「一酸化炭素センサーとして機能する転写調節因子C ooA の構造と機能」, 青野重利 (2000年 -2004年).
基盤研究(B ), 「ヘムを活性中心とする気体分子センサータンパク質の構造と機能」, 青野重利 (2002年 -2003年). 萌芽研究 , 「気体分子センサータンパク質の構造機能解析とそのバイオ素子への応用」, 青野重利 (2002年 -2003年). 東レ科学技術研究助成金 , 「気体分子による生体機能制御のケミカルバイオロジー」, 青野重利 (2003年).
基盤研究(B ), 「生体機能制御に関与する気体分子センサータンパク質の構造と機能」, 青野重利 (2004年 -2006年). 特定領域研究「配位空間の化学」, 「タンパク質配位空間を利用した気体分子センシングとシグナル伝達」, 青野重利 (2003 年).
C ) 研究活動の課題と展望
これまでの研究において,一酸化炭素,酸素などの気体分子が生理的なエフェクター分子として機能するセンサ−タンパク 質が,ヘムを活性中心として含む,これまでに例のない新規なヘムタンパク質であることを明らかにしてきた。C Oセンサータ ンパク質C ooAに関しては,その結晶構造の解明に成功したが,これは生理的には不活性型の構造であった。今後は,活性 型および標的DNAとの複合体の構造解明を目指して研究を進める予定である。酸素センサ−タンパク質HemA Tに関して は,酸素の選択的センシング機構に関してはかなりなところまで明らかになってきたので,今後さらに研究を進め,HemA T が 関与するシグナル伝達機構の全貌解明を目指したい。また,C ooA ,HemA T 以外の新規なヘム含有型センサ−タンパク質 を始めとし,これまでに無い新規な機能を有する金属タンパク質の構造・活性相関の解明を目指して研究を進めたい。